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札幌地方裁判所 昭和60年(ワ)738号 判決

原告

マジソンハイツ管理者曲堀幸和産業株式会社

右代表者

堀内利幸

右訴訟代理人

入江五郎

右同

小門立

被告

石間春夫

主文

一  原告は、被告の有する別紙目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  主文同旨

2  仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  別紙目録の(一棟の建物の表示)欄記載の建物(以下「マジソンハイツ」という。)には、別紙区分所有者目録記載のとおりの一一八名の区分所有者がいる。

2  原告は、昭和五〇年五月二四日に招集された集会において、区分所有者及び議決権の各過半数の決議をもつてマジソンハイツの管理者に選任された。

3  被告は、別紙目録記載のとおりの区分所有権及び敷地利用権を有するマジソンハイツの区分所有者である。

4(一)  被告は、次のとおりマジソンハイツの建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした。

(1) 被告は、いわゆる暴力団組織である初代誠友会を組織して、その総長を自称し、昭和五六年一一月二日以降マジソンハイツ三〇七号室の自己の専有部分を初代誠友会事務所として使用していて、同所に配下の者を常駐させ、また外部の暴力団関係者を常時出入りさせていた。

(2) ところが、昭和六〇年一月二三日未明、被告配下の初代誠友会系組員らが、対立関係にあつた暴力団組織である源清田系組員らとの間で抗争事件を起こし、マジソンハイツの右初代誠友会事務所(三〇七号室)及び同事務所前の三階通路等がその舞台となつた。すなわち、同日午前二時三〇分ころ、源清田系組員数名が、マジソンハイツ内に乱入して、三階の右事務所内に立て籠つた被告配下の組員らと互いに罵声を浴びせ合いながら厳しく抗争し、さらに源清田系組員らは三階エレベーター前に備付けてあつた粉末消火器を右事務所に向けて放射したのち、この消火器と同所備付けの金属製吸殻入れを右事務所玄関扉に叩きつけ、壁面取付けの電気メーター計器類を破壊する等の示威的暴力行為をなして退散した。これに対し、被告の配下の組員らは、再度の襲撃に備え、三階に通じる階段に家具等で防護柵を築いて通路を遮断し、さらに消火栓の箱内に鋭利な細工用鋸を隠し置く等してマジソンハイツの共用部分を不法に占拠し、他の居住者の利用を排除した。その後、同日午後三時ころには源清田系組員数十名が警察官の制止を振り切つてマジソンハイツ内に乱入し、右事務所の玄関扉を蹴飛ばす等の乱暴をし、これに対し、被告の配下の組員らも室内に立て籠つて罵声を浴びせ合つた。

(3) 昭和六〇年七月九日未明、札幌市内で初代誠友会系の組員が他の暴力団組員に刃物で腹部を刺されるという事件が発生したことから対立抗争関係が激化し、同日午前五時三〇分ころから、マジソンハイツの初代誠友会事務所に被告の配下の組員らが集合し始めた。そのため、具体的な殺傷事件に発展するのを防止するため、同日午前六時三〇分ころから、警察官十数名が出動警戒するという騒ぎとなり、右警戒は同月一一日午前七時ころまで継続された。

(二)  被告がマジソンハイツ内の専有部分に事務所を設けて暴力団関係者の出入りを許していることにより、将来とも同ハイツを舞台として右のごとき暴力団組織による抗争事件が再発し、他の区分所有者や居住者らの生活の平穏が著しく害されるおそれが十分にある。

(三)  右のごとき被告による専有部分の使用態様や被告とその配下の組員らの行動等によつて、マジソンハイツの居住者は常に恐怖におののきながらの生活を余儀なくさせられており、室外に出ることさえままならず、来訪者も訪れにくくなつたばかりか、共用部分の利用を阻害されたうえ、無関係な暴力団同士の抗争による殺傷事件の巻添えになる危険にも日夜曝されていて、区分所有者や居住者の共同生活上の障害はきわめて重大である。

(四)  そして(一)(2)記載のごとき無法な抗争事件が、住民の要請によつて警察官がマジソンハイツを見回りするなどの警戒態勢下で発生したことからすれば、被告の専有部分である三〇七号室の一時的使用禁止等の方法によつては、右の共同生活上の著しい障害を除去し、区分所有者らの平穏な共同生活の維持を図ることはきわめて困難である。

5  そこで、被告を除くマジソンハイツの区分所有者らは、昭和六〇年三月二三日の集会において、あらかじめ被告の代理人である訴外岩本哲彌の弁明を聞いたうえ、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数をもつて、被告の有する別紙目録記載の区分所有権と敷地利用権について競売を請求すること及び右競売の請求については、マジソンハイツ管理者である原告に対し訴訟追行を委ねることを決議した。

6  よつて、原告は、被告を除く他のマジソンハイツの区分所有者全員のために、建物の区分所有等に関する法律第五九条の規定に基づき、被告の有する別紙目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を請求すべく請求の趣旨記載のとおりの判決を求めて本訴に及んだ。

二  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実のうち、(一)については、原告主張のころ、源清田系組員らがマジソンハイツ内に侵入したこと、粉末消火器を放射したことは認める。被告の配下の組員らが再襲に備え、三階に通じる階段に家具等で防護柵を築いて通路を遮断したことは否認する。三階に通じる階段の一部に家具を置いて通りづらくしたことはあるが、通路は閉鎖されておらず、一時的なものである。

同(二)ないし(四)の事実は否認し、その主張は争う。

源清田系組員らの侵入については間もなく話し合いがついて落着し、暫くの間、マジソンハイツ周辺を警察官が見張つていたので、居住者らが不安を感じることはなかつたはずである。

マジソンハイツ内に初代誠友会系組員らが居住し活動の拠点とすること自体によつて不安を感じ平穏な共同生活に支障があるとするならば、事務所を撤収することにやぶさかではなく、現に被告は、その専有部分を暴力団関係者でない第三者に賃貸することを検討中である。

5  同5の事実のうち、昭和六〇年三月二三日の集会において、訴外岸本哲彌の弁明を聞いたことは認めるが、その余の事実は知らない。

第三  証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一請求の原因1(マジソンハイツの区分所有者数)及び同3(被告が別紙目録記載のとおりの区分所有権及び敷地利用権を有する区分所有者であること)の各事実は当事者間に争いがなく、また、〈証拠〉によれば、請求の原因2の事実(原告がマジソンハイツの管理者に選任されたこと)が認められる。

二そこで、被告について、マジソンハイツの保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為がありこれによつて建物の区分所有等に関する法律第五九条所定の共同生活上の著しい障害が生じたといえるか否かについて検討する。

請求の原因4(一)のうち、原告主張のころ、源清田系組員らがマジソンハイツに侵入し、粉末消火器を放射するなどの無法をなしたことは当事者間に争いがない。

そして、右争いのない事実と〈証拠〉並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができ、他に、この認定の妨げとなる証拠はない。

(一)  被告は、いわゆる暴力団組織である初代誠友会の最高幹部であり、総長を自称している。右初代誠友会は、広域暴力団山口組に加盟する組織であり、昭六〇年九月の時点で北海道警察本部の把握するところによれば構成員は約二八〇名であつたこと。

(二)  被告は、昭和五五年一二月ころにはマジソンハイツ三〇七号室に右初代誠友会本部事務所を設け、昭和五六年一二月一八日に、同年一一月二日の代物弁済を原因として右三〇七号室の区分所有権及び敷地利用権を取得した旨の所有権移転登記手続を経由し、同所を昭和六〇年七月まで事務所として継続使用してきたこと。

(三)  被告は、右期間中、事務所に常時配下の暴力団員を常駐させ、また同所に外部の暴力団関係者らを頻繁に出入りさせていたことから、マジソンハイツの居住者らは、日夜右暴力団関係者らが醸し出す異様な雰囲気に脅え、難を受けるのをおそれて兢兢としていた。また、マジソンハイツ脇の道路を歩いていた住民が、上からツバや水をかけられたことも、一度ならずあつたこと。

(四)  昭和六〇年に入つて、右事務所では、毎月二〇日に、初代誠友会の会合が開かれるようになつた。そのため、その当日には、朝からマジソンハイツ周辺の道路は、被告の配下の暴力団関係者の違法駐車で一杯となり、さらには、向いのマンション駐車場にも無断で自動車を駐車させる者もいて、原告に対し苦情が寄せられるようになつたこと。

(五)  昭和六〇年一月二二日深夜、札幌市中央区薄野地区で、被告配下の組員らと対立関係にあつた暴力団源清田萩原一家の構成員らが、車両の通行方法をめぐつて口論となり、両組織の対立抗争事件に発展し、マジソンハイツがその舞台となつた。すなわち、翌二三日午前一時すぎころ、源清田系組員数名がマジソンハイツの前記初代誠友会事務所へ押しかけたが、誠友会系の組員らが右事務所に施錠して立て籠つたため、源清田系組員らは、同所入口の監視用カメラを破壊し、同ハイツ三階エレベーター前に備付けていた粉末消火器を右事務所の扉に向けて放射したうえ、同所備付けのたばこの吸殻入れを右事務所の扉に叩きつけるなどの無法に及んだ。これに対抗して、被告配下の誠友会系組員らは、三階に通じる階段に家具等で防護柵を築く一方、組員二十数名を集合させて応戦態勢を整え、同日午前二時ころ、源清田系組員十数人が車両に分乗してマジソンハイツに押し掛け、うち数名が三階廊下に至るや、反撃に出て、源清田側から奪い取つた槍で突き刺し、あるいは殴打、足蹴りするなどの集団傷害事件を引き起した。そして逃げ遅れた源清田系組員をら致したりするなどの行為に及んだ。右抗争に伴う一連の暴力事件直後に行われた捜査当局の実況見分のときには、マジソンハイツの一階から三階に至る階段には無数の血痕が存し、三階階段から同階廊下に至る間には下駄箱二個がバリケード様に放置され、三階廊下には折れた棒、木片、白色粉末等が散乱していた。右抗争に際し、三階壁面に取り付けてあつた電気メーター計器類は破壊され、階段の一部設備も剥ぎ取られた。さらに、同日午後三時ころには、源清田系組員三、四〇名がマジソンハイツに押し掛けて、誠友会系組員らと罵声の応酬をし、建物内に入り込む者もいて、騒然となつた。抗争事件の抑止とマジソンハイツの区分所有者や居住者らに被害の及ぶのを予防するため、事件発生日以後六日間にわたり、一日最高三六名の警察官が出動して、警戒にあたつたこと。

(六)  以前から、暴力団組織による抗争が繰り返えされ居住者らの恐怖心が著しく募つているところに右のような重大悪質な集団傷害事件が発生したことによつて、マジソンハイツの区分所有者や居住者らは、日夜、いつまた抗争が生ずるかもしれないという恐怖感にかられ、その不安はますます募り、居住者の中には、住むに耐えないとか子供の教育上問題があるとして転居する者もあり、またマジソンハイツ内に設計事務所を設けていた者が、女子職員が恐怖心のために出勤せず、そこでは仕事にならないとして他へ移つた例もあつたこと。

(七)  また、右のごとき暴力団組織による抗争事件の渦中にあつたことからマジソンハイツについて良くない風評が立ち、札幌市内でも有数の立地条件にあるにもかかわらず、賃借希望者がなく、空室が続出し、経済的価値も買受当時の半分以下となつてしまつたこと。

(八)  本件訴訟提訴後の昭和六〇年七月二八日に、右誠友会事務所からダンボール箱数個が搬出され、そのころ事務所の看板がはずされたが被告の専有部分である三〇七号室内には、依然として家具等が置いてあること。

(九)  前記昭和六〇年一月二二日から二三日にかけての抗争事件当時、マジソンハイツでは、居住者らの一部が暴力団員らによる違法活動を防止するために、マジソンハイツの一室を警察官立寄所として提供し、常時見回りの態勢にあつたにもかかわらず、前叙のごとき集団傷害事件が発生したものであること。

以上の事実によれば、被告は、自己及びその配下の組員らの行動を介してマジソンハイツの保存、管理、使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をなし、これによる他の区分所有者らの共同生活上の障害は著しい程度に至つていると認めることができ、かつ使用禁止等の他の方法によつては、その障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者らの平穏な共同生活の回復、維持を図ることが困難と認められるから、建物の区分所有等に関する法律第五九条に規定する事由が存するものとみるのが相当である。

この点、被告は、その専有部分である三〇七号室を暴力団組織と関係をもたない第三者に賃貸することを検討中である旨主張するが、本件口頭弁論終結時までに右の趣旨の賃貸借契約を締結した事実を認めるに足る証拠は全くなく、また前記認定に係る抗争事件やその後の措置についての諸事実及び弁論の全趣旨を総合すると、被告の任意の対応に委せていたのでは、他の区分所有者らの前叙のごとき共同生活上の重大な障害を除去して、円満かつ平穏な共同生活を回復し維持していくことを期待することは困難であるとみざるをえない。

三請求の原因5の事実のうち、昭和六〇年三月二三日の区分所有者の集会において、決議に先立ち、被告の代理人である訴外岸本哲彌の弁明を聞いたことは当事者間に争いがない。

さらに、〈証拠〉によれば、右集会において、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数をもつて被告の有する区分所有権と敷地利用権について競売請求をすること及び右競売請求については原告に訴訟追行を委ねることを決議したことが認められ、これに反する証拠はない。

四以上のとおりとすると、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言については、相当でないので付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官舟橋定之 裁判官西 謙二 裁判官合田悦三)

目  録

一 区分所有権

(一棟の建物の表示)

所   在  札幌市中央区南九条西三丁目一〇番地八〇

建物の番号  マジソンハイツ

構   造  鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一一階建

床 面 積

一階  四四一・八六平方メートル

二階  五六九・四四平方メートル

三階  五六九・四四平方メートル

四階  五六九・四四平方メートル

五階  五六九・四四平方メートル

六階  五六九・四四平方メートル

七階  五六九・四四平方メートル

八階  五六九・四四平方メートル

九階  五六九・四四平方メートル

一〇階  五六九・四四平方メートル

一一階  五六九・四四平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号  南九条西三丁目一〇番八〇の四二

建物の番号  三〇七

種   類  居宅

構   造  鉄骨鉄筋コンクリート造一階建

床 面 積  三階部分 六五・三六平方メートル

二 敷地利用権

(敷地権の目的たる土地の表示)

土地の符号  1

所在及び地番 札幌市中央区南九条西三丁目一〇番八〇

地   目  宅地

地   積  八六五・九六平方メートル

(敷地権の表示)

土地の符号  1

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 一〇〇〇〇分の一四三

区分所有者目録〈省略〉

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